高橋先生のブログ

着床障害の新しい検査法について

クリニックのホームページでもお知らせしましたが、最近の着床障害の検査ができるように致しました。

着床障害の検査について少し詳しく説明致します。


Ⅰ)まず、従来の着床障害の検査は、子宮卵管造影検査子宮鏡、超音波検査です。これらは全ての方に、不妊治療の早期に受けて頂く必要があります。それだけ重要なのです。

①子宮鏡検査により、粘膜下子宮筋腫、子宮内膜ポリープ、子宮内腔癒着(アッシャーマン症候群)の有無を確認します。これらがあると、物理的に着床障害をおこすので、手術により切除、修復する必要があります。これは基本(つまり重要)な検査で、最近の検査よりも重要と言っても良いものです。基本をおろそかにして、最近の検査を重要視するのは正しくはありません。

②子宮卵管造影検査では、大きな粘膜下筋腫や子宮内膜ポリープ、子宮内腔癒着も分かりますが、子宮鏡よりも精度は低下します。着想障害での子宮卵管造影検査の意義は、卵管水腫の有無の確認です。重症の卵管水腫があると、卵管水腫内溶液が子宮内に逆流し、着床率が1/2~1/3に低下し、流産率が2倍に上昇します。重症の卵管水腫がある場合には、腹腔鏡手術で、卵管水腫切除、クリップでの卵管遮断などがおこなわれます。

③超音波検査では、粘膜下筋腫や大きな子宮内膜ポリープは分かります。また重症の卵管水腫も分かることもあります。最近では、帝王切開痕症候群といって、帝王切開をおこなった瘢痕部から透明や褐色の分泌物が子宮内腔に貯留していることで、着床障害が起きていると考えられる方も少なくありません。

実際には、単独の検査で判断するのではなく、この3つの検査法を全ておこなって、確認、評価をおこないます。



Ⅱ)最近の「着床障害」の原因と検査法

 最近注目されている着床障害の原因と検査方法は主に次のようなものです。

慢性子宮内膜炎   原因菌は腸球菌, 連鎖球菌, 大腸菌, ウレアプラズマ/マイコプラズマなどが疑われていますが、が明確にはなっていません。検査方法は、子宮内膜を一部吸い取って、顕微鏡で炎症細胞である形質細胞の特異的マーカーであるCD138で染色して、子宮内膜に形質細胞がたくさんいるかどうかで判断します。たくさん(基準はまだ流動的)の形質細胞を認めれば、慢性子宮内膜炎と判断します。検査する人、基準により、判断が分かれる可能性もあります。

 治療は、ビブラマイシンという抗生物質を2週間使用します。それで改善しない場合には、フラジールを2週間使用します。治癒の判断はCD138検査を再度おこないます。検査費用は約8千円

子宮内フローラ(細菌叢)  子宮内には、実は多くの細菌がいるようです。しかし、通常の細菌培養検査ではほとんど検出できなかったので、子宮内内は無菌状態であったと考えられてきました。しかし、最近の遺伝子PCR検査で、高感度で検査できるようになると、子宮内には最近がたくさん存在し、ラクトバチルス、乳酸菌などが実際には90%以上占めているのが正常な細菌叢であると分かってきました。これがラクトバチルスや乳酸菌以外のものが多くなると、着床障害や流産の原因になっていると考えられてきています。高感度の最近フローラ検査は、約2.5万円します。ラクトバチルス、乳酸菌以外のものが多い場合にも、ビブラマイシンが使用されます。また、当クリニックでは、ラクトバチルス、乳酸菌製剤を内服して頂いております。腸内細菌と子宮内細菌叢はかなり一致しているようなので、内服をおこなっています。より積極的におこなうには、膣内に乳酸菌製剤を挿入することもあります。

 ①の慢性子宮内膜炎の患者さんにビブラマイシンで治療したら、その後はラクトバチルス優位となった報告もあるので、細菌フローラと慢性子宮内膜炎はかなり重なる例もあると思います。

 したがって、①、②でビブラマイシンを使用した時には、ラクトバチルス・乳酸菌も併用した方が良さそうですね。


③子宮蠕動(ぜんどう)  胚移植後の子宮収縮が、着床を阻害する可能性がある、という報告がありました。

 子宮嬬動運動と呼ばれる微細で律動的な秒単位の収縮は、通常は。測定が難しいのですが、最近では短時間に撮像した MRI 画像のシネ表示. ( シネ MRI ) により子宮嬬動の直接の描出が可能になってきています。ただし、これはMRIの特殊な使用法であり、検査した時に認めても、胚移植する時に子宮蠕動があるかどうかは分かりません。当クリニックでは、シネMRI をとるのではなく、子宮収縮抑制剤のブスコパンを全例に使用しています④。


④ERA検査  胚が着床しやすい時期である、着床の窓(インプランテーションウィンドウ;という概念)があり、着床に適している時期かどうかを遺伝子発現で検出するとされるERA検査(約20万円)があります。しかし当クリニックではおこなっておりません。この検査は、商業的な面が先走っているようで、その有用性はまだ明確ではありません。そもそも子宮内膜の状態は毎周期異なるので、胚移植する時期と異なる周期におこなった結果が、胚移植の周期に同じであるという保証もないのです。実際に最近では、ERA検査の有用性を否定するような報告も出てきています。もう少し多くの論文が出てからの判断する方が良いでしょう。


最近の着床障害の原因検索は、非常に盛り上がっております。

しかし、着床障害においては

①妊娠しない最も大きな原因は、胚の質によります。妊娠への最重要は、胚の質の向上にあるのです。

②着床障害の検査としては、まずは基本の(重要な)、子宮鏡、子宮卵管造影検査、超音波検査を、不妊治療初期にしっかりおこないましょう。

③着床障害の定義対象は、「体外受精で、良好胚を2~3回移植しても妊娠しない、40才未満の方」

が対象です。40才以上の方の妊娠しない原因は、ほとんどが胚の染色体の問題であり、子宮内の問題ではないとされています。ただし、40才以上の方に、これらの検査が無意味であるわけではありません。意義は少ないですが無駄ではないので、ご希望の方は念のために受けても良いとは思います。


 慢性子宮内膜炎(約8千円)と、子宮内細菌叢(フローラ)遺伝子検査(約3.5万円)は、生理6~10日におこなっております。問題がある場合には、抗生物質(2週間)やラクトバチルス・乳酸菌製剤を使用致します。