高橋先生のブログ

ICSIでなく、マイクロドロップ法という選択肢

先日、通常ならば顕微授精(ICSI)が必要な方が、どうしてもICSIを避けたいとの要望があり、マイクロドロップ法を10年ぶりにおこないました。
その結果、採卵した3個の卵子がすべて受精して、胚移植が出来ました。顕微授精が当たり前におこなわれている現在では、マイクロドロップ法はすたれていった技術ですが、若い胚培養士が顕微授精をおこなわずに受精したことに驚いていました。
私は、培養士の大半がマイクロドロップ法を知らない世代になったことに驚きました。皆さんの選択肢としてもあり得る方法なので、ここでご紹介致します。

皆さんご存じでしょうか?通常の体外受精で受精するにも、1CCあたり10万匹程度の運動精子が必要なのです。精子1匹いれば受精する、のではないのですね。
顕微授精がおこなわれる以前には、通常の体外受精しか受精させる方法がなく、重症の乏精子症の方には、精子が足らずに、卵子がたくさんとれても受精できないことがしばしばおこりました。
そのようなときに、マイクロドロップ法がおこなわれたのです。精子と卵子をおよそ1CCの培養液の中で受精させるのですが、その場合に元気な運動精子が10万匹ほど、つまりそれだけの精子濃度を必要とするのです。しかし、運動精子が少ない場合には、培養液を1/10にする事で、精子濃度を10倍にする事が出来るのです。このように工夫して、少ない精子でも体外受精で受精卵が得られることがあるのですね。
今回の方は、原精液の精子運動率が12%、総運動精子が360万でした。一般的にはICSIの適応でしたが、幸いに、今回はマイクロドロップ法で受精卵が得られたのです。

どうしてもICSIをしたくない方には、挑戦してみることができる方法でしょう。マイクロドロップ法は一つの選択肢といえますので、ここでご紹介致しました。
ただし、この方法は、非常に重症な乏精子症には使えません。やはりICSIの方が、重症の乏精子症にもおこなえるし、より高率で受精卵を得られるのです。マイクロドロップ法は、ギャンブルのような方法になります。受精しないことも少なくないことを受容した上で、どうしてもICSIにしたくない場合にはあり得る方法なのです。