高橋先生のブログ

凍結胚移植後1卵性双胎、高血圧合併妊娠で無事出産、本当に幸運でした!

おめでとうございます。そして産科の先生、ありがとうございました。
先日、30代後半の方で、妊娠前の血圧が192/122だった方が、降圧剤を飲みながら、凍結胚盤胞移植、1卵性双胎で妊娠し、30週中頃で双子を出産されたとのご報告を頂きました。
大変な経過であったようですが、何とか出産まで漕ぎ着けられたことは、非常に幸運であったと思います。御本人の覚悟と努力、そして産科の先生のご尽力にもよるところです。産科の先生に御礼を、そして御本人にはお祝いを申し上げます。
この方の経緯は、まさに様々な施設と先生方の総力戦でした。
当初、右の卵管閉塞に対しては、当クリニックで卵管鏡下卵管形成術を施行。
その後、左の重症の卵管水腫には、他院で腹腔鏡下に卵管切除。
降圧剤は、多剤併用し、妊娠の許可に関しては、内科や大学病院にコンサルトし、その上で体外受精。胚移植4回目(凍結胚盤胞移植1個)で、一卵性双胎となり、当クリニック卒業。
大学病院ではバイアスピリンも使用し、早産傾向もあり管理入院。妊娠35週前に血圧が危険状態に上昇となり帝王切開となりました。児はNICUに入院したものの無事その後退院。
お子様も特に問題なく、本当に良かったです。

さて、この方の結果的に良かったことのみを皆さんにお伝えすることが主目的ではなく、これを読んでいる皆さんに何が参考になるか考えてみましょう。
①まず、血圧に関しては、最初の血圧は妊娠を許可される状態ではありませんでした。高血圧のまま妊娠すると、とても30週以降まで妊娠を維持できません。妊娠後に血圧をコントロールすることは非常に難しく、薬を使用してもコントロールできる保証は全くないのです。結果として、脳出血、痙攣、胎盤剥離などをおこす可能性が高くなり、妊娠を中断し、人工中絶も考えることになるのです。
皆さんは、単に妊娠することが目的ではありません。元気なお子さんを手に抱くことが目的です。したがって、妊娠前に、出産までを考えた準備が必要なのです。
この方は、妊娠前から降圧剤を使用していました。薬を使用することをためらうのではなく、もし妊娠継続に不利な条件が今あるならば、それに対する対策をしっかりと取る必要があるのです。
この方は肥満ではなかったのですが、肥満の方は減量をして、高血圧や高血糖をしっかりとコントロールする必要があるのです。
②この方は35週前で帝王切開になりましたが、これがぎりぎりの選択だったと推測されます。妊娠24週ぐらいで妊娠継続が不可能な場合もあり得るのです。皆さん、妊娠したら最後まで妊娠継続できると漠然と考えていませんか?様々な合併症があると、最後まで妊娠継続できる可能性はかなり低くなるのです。一般的に、合併症のある場合には、最後まで妊娠継続できない可能性についても理解して頂く必要があります。
③この方は比較的若く、卵巣機能もしっかりしていたので、卵管水腫の切除もおこなう余裕がありました。例えば40歳以上の方や、卵巣機能がすでに低下している方には、重症の卵管水腫があってもその手術をする意義が低下し、余裕もないのです。年齢や卵巣機能の低下により、不妊治療の選択肢も徐々に狭まっていくのです。したがって、治療を迷っている方は、まずは一人を急いで妊娠/出産することを考えてみては如何でしょうか。
④妊娠/出産で死亡される方は、日本でも毎年40人程度いらっしゃいます。これは世界的には最も低いグループの数字です。一例を挙げると、日本では2010年の妊産婦10万人あたりの死亡は4.1人ですが、アメリカは63人、ヨーロッパでも20人なのです。いかに日本の産科の先生方ががんばっているかをご理解頂きたいと思います。日本の産科の成績は、世界的には奇跡的なものなのですね。しかし、妊娠中の対策は、本人と赤ちゃんの両方を考えておこなう必要があるので、対応できる限界が様々あるのです。この方にも、いつ御本人に異常が起きてもおかしくない状況だったと思います.御本人もご家族も、実際に命を賭けての挑戦だったと思います。妊娠のみではなく、出産までの道のりを考えて、リスクがある場合には、その必要性の理解と、覚悟が必要になるのですが、その覚悟の元に、今できる対策をどんどん進めていきましょう

この方は、ご自身の覚悟と努力が実を結んで本当に良かったです。しかし、不妊治療は結果が出ないことも少なくありません。その可能性を少しでも上げるためには、スピードも含めて、その対策をしっかりと取っていきましょう。