高橋先生のブログ

反復不成功の染色体異常(ロバートソン転座)を持つ夫婦への総力治療例

習慣流産・不育症の基本検査に、お二人の染色体分析検査があるのですが、「染色体異常があっても治療できないから検査しません」というお声をしばしば聞きます。しかし、染色体異常があっても妊娠、出産は可能である事が多く、基本的な大切な検査なのです。
話はそれましたが、染色体異常の一つに、ロバートソン転座があります。
今回、ご主人がロバートソン転座であったカップルが妊娠・卒業されましたので、ご紹介致します。
妻は40才前の方です。千葉近辺のクリニックですでに5回の採卵、3回の胚移植を受けるも妊娠せず来院されました。

夫は14番と21番の染色体のロバートソン転座で、顕微授精を必要とする重症の乏精子無力症でした。これは、14番と21番の染色体の短腕(短い染色体)がなくなって、長腕(長い染色体)どおしがくっついてしまったものです。しかし、染色体は2対あるので、正常な方が赤ちゃんに行けば正常な染色体になるのです。実際には、生まれてくるお子さんは、正常か、お父さんと同じ染色体で問題なく生まれてくるのです。トリソミーという染色体が多くなって生まれてくるお子さんは、だいたい1%程度であり、染色体が少ない場合にはすべて流産になります。つまり夫婦のどちらかが染色体異常があっても、生まれてくる子供はほとんど問題がないことが多いのですね。実際には染色体異常の形式により、確率・頻度は異なりますが、染色体異常があっても妊娠・出産を必ずしも諦める必要はないのです。

妻には、いくつかの対策をとりました。前医では2回は採卵できなかったこと、AMHは2.83と卵巣予備能は十分あったこと、採卵数は多い方が良いことより、
①ロング法を採用しました。
②肥満であったので、血糖検査をおこないました。境界型糖尿病であったので、栄養相談をおこない、糖尿病薬のメトグルコを使用しました。メトグルコにより卵子の質の向上が期待できるのです。
③血管年齢検査では46才相当と、動脈硬化傾向とEPA検査でも低値であったので、血液もさらさらにするエパデールを使用。
④ビタミンCは6.0、ビタミンDは17.7と、両方ともかなり低く、酸化ストレスも強いため、DHEA、アシストワンを使用しました。
⑥新型培養器のエンブリオスコープも使用する事しました。
その上でしっかりとHMG注射も行い、前医では最高6個の採卵でしたが、当クリニックでは12個採卵しました。8個ICSIし、7個受精、2個胚盤胞凍結しました。
その後、ホルモン補充周期で1個胚移植し、1回目の採卵により、妊娠・卒業となりました。
見直して見ると、当クリニックでのほぼすべてを網羅した、総力を結集した対応だったと思います。
どれが最も有効であったかは実際には明確には分かりません。しかし、一つの方法でうまくいくことはむしろ珍しいのではないかと思います。妊娠に向けて様々な方向から改善を目指す必要があると思います。
今後も、より多くの引き出しを作って、皆さんに提供できるように勉強・;努力していきたいと思います。