高橋先生のブログ

抗精子抗体(精子不動化抗体)にまつわる2例の妊娠

古いカルテを整理していて、精子不動化抗体のまつわる2例の妊娠例がありましたのでご紹介致します。
1)33歳、妊娠歴なし。精子不動化抗体定性検査で陽性。不動化抗体定量検査(SI50) で3.4と陽性でありますが、抗体価は低めでした。精子不動化抗体陽性の場合には、自然妊娠や人工授精での妊娠は困難であり、一般的にはすぐに体外受精が勧められます。
しかし、抗体価は上下し、精子不動化抗体も低い場合には自然妊娠することもあり得ます。
今回は、比較的抗体価が低かったので、御本人とも相談してしばらくタイミングで見ることになりました。そして、子宮卵管造影検査4ヶ月後、クロミフェン周期で[自然妊娠し、卒業されました。

2)30歳超の方です。他施設で、精子不動化抗検査が、定性検査でも、定量検査でも陽性とのことで、体外受精(採卵2回、胚移植4回)を受けていました。しかし、この方は過去に自然妊娠・出産の経験がありました。前例のように、精子不動化抗体が陽性でも妊娠例はあるので不思議ではないのですが、念のために当クリニックでも、精子不動化抗体の定性、定量検査をおこないましたところ、両方とも陰性の検査結果でした。その後、御本人に結果をお話しし、人工授精1回目で妊娠されました。

精子不動化抗体はこれが女性に存在すると、子宮頸管部や子宮内で精子に抗体が付着し、精子の動きを止めてしまうので、自然妊娠や人工授精での妊娠が非常に難しくなるのです。この検査には、定性検査と定量検査があることをご存じでしょうか。
定性検査(SIV)は、陽性、陰性のみを判定します。
定量検査は、SI50といって、抗体の高さを測定します。抗体の強さにも変動があり、抗体価が高いと、一般不妊治療での妊娠は難しいのですが、抗体価が低い場合には、自然妊娠や人工授精での妊娠もあり得るのですね。
ここで、注意する点は、
1)1回の検査結果で、絶対に正しいと決めつけないことです。2例目のように、原因は分からないのですが、検査結果が異なることがあるのです。他の場合でも、もし検査結果と症状との間に疑問があるようならば、再検査をする事が必要なのですね。また、抗体価が陰性と陽性のぎりぎりだと、調べた時の抗体価の上下により、定性試験では陽性になったり、陰性になることもあるのです。
2)精子不動化抗体が陽性でも、抗体価が低い場合には一般不妊治療での妊娠もあり得るので、人工授精なども試してみる意義はあるのです。
3)定性検査で、「強陽性」と結果が帰ってくることがあります。しかし、これは抗体価が高いこととは一致しないようです。抗体価を調べるには、定性検査(SI50) が必要なのです。当クリニックでも、定性検査が陽性の場合には、定量検査の為の採血を別の日にして、確認試験をしています。実際にこれにより、定性反応の偽陽性(実際には陰性だった)例もあるのです。

一般的には、1回の検査がすべて正しいとは決めつけない方が良いですね。また、医療は、0か100かではないのです。総合的に判断する必要があることをご理解頂きたいと思います。