高橋先生のブログ

卵管移植の妊娠例(今では歴史的な妊娠例なのですね)

 当クリニックの古いカルテを整理している際に、当クリニックでの手術例ではないのですが、このような妊娠もあったのだという、今後は見られないであろう妊娠例があったのでご紹介致します。
 不妊治療では、過去に様々な挑戦の歴史があって、現在の不妊治療も様々な挑戦、試行錯誤の真っ只中であることを感じて頂ければ幸いです。

 症例は、30歳前後の卵管自己移植妊娠例です。
 この方は当クリニックで自然妊娠したのですが、その時は子宮外妊娠で、右の卵管を切除しました。
 手術後の卵管造影検査と子宮鏡検査で、右単角子宮、左副角子宮(子宮の痕跡のみで子宮内腔がない)であったのです。したがって右の子宮には卵管がなく、左の卵管には瘢痕の子宮のみで子宮内腔が内状況であったので、残っている卵管は子宮に繋がっておらず、このままでは絶対に妊娠しない状況でした。
 現在では、体外受精をすればこのような方も妊娠可能なのですが、当時、体外受精と卵管移植の選択肢をお示しし、御本人は卵管移植を希望されたので、子宮移植のできる施設をご紹介致しました。 
 手術は、残っている左卵管の断端を反対側まで引っ張ってきて、右単角子宮の卵管角とを顕微鏡下(マイクロサージェリー)に端々吻合(たんたんふんごう)したのです。
 その後、帝王切開で出産後に当クリニックを訪れて下さり、顛末をしることができました。
 卵管手術は成功しており、その後子宮内に妊娠されたのでした。

 この手術をおこなった医師は、すでに定年退職されており、現在この手術をおこなえる経験者はなかなかいないのではないでしょうか。記憶ももう曖昧ですが、私も2例ほど手術の助手を務め、1例術者の経験がある程度です。今では卵管のマイクロサージェリーをおこなうこと自体ほとんどなくなっていると思います。
 体外受精が広まっている現在、今後はこのような手術をすることはなかなかないとは思いますが、過去にはこのように様々な挑戦がなされたことを皆さんにご紹介致しました。
 現在も多くの医師が様々な挑戦をしている最中なのです。ですからこそ、皆さんと一緒にがんばって挑戦しているのです。