高橋先生のブログ

卵子凍結の問い合わせ

先日、43歳の方から、当クリニックで卵子凍結をおこなっているか、との問い合わせがありました。
御本人はまだ未婚で、今年中には籍を入れるとの事でした。
浦安市で「卵子凍結:千葉・浦安市が助成、決定 3年9000万円 順天堂病院に施設」
という情報に刺激されたのか、偶然なのかはわかりませんが、今後、この情報により、卵子凍結(つまり未受精卵)を希望する方が増えるかもしれません。

当クリニックの状況をお知らせする必要があると思い、今回ご説明致します。
1)卵子(未受精卵)凍結は、基本的に当クリニックでは現在おこなっておりません。
2)胚(受精分割胚)凍結は、日常的におこなっております。
3)精子凍結は、白血病、精巣腫瘍、その他の腫瘍で、手術や抗癌剤を使用する方には、精子凍結保存を承っています。

実際には「現時点では、医学的理由以外の卵子凍結は不妊治療ではない」のです。
したがって、年齢を理由とする卵子凍結は現時点では当クリニックで扱っておりません。
このような報道に戸惑っているのが実情です。

実際には、43歳は通常の体外受精でも妊娠率は15%程度で、半数は流産になってしまいます。卵子凍結の場合には、もっと可能性は低くなるのです。凍結するならば、受精卵(胚)を凍結する方が良いのです。
今回の例としては、パートナーがいらっしゃるので、籍を入れているかどうかは別にして、すぐに体外受精をおこなうことが妊娠、出産には最も良い方法でなのです。


社会的経緯)
 千葉県浦安市と順天堂大浦安病院(同市)は2月23日に、将来の妊娠と出産に備えて健康な女性の卵子を凍結保存する新年度事業を正式発表しました。現状では健康保険が適用されないため市が同病院の研究に補助金を出し、最低でも約100万円とされる市民の負担を3割にしてもらう方針とのことでした。
 同病院では、難治性不妊症に対応する高度治療施設(つまり体外受精をできる施設という意味でしょうか?)を4月に設立し、市内の20~34歳の女性を対象に、将来の体外受精に向けて卵子を採取、凍結保存する研究を進めるようです。「少子化対策の一環」として、2017年度までの3年間で計9000万円を補助する方針で、希望する女性は、出産適齢期を啓発する講演会に出席した上で、最終的には同病院の倫理委員会の審査を受けるとのことのようです。

 日本産科婦人科学会は昨年の会告(指針)で、卵子の凍結保存は、がんなどの治療で卵巣機能の低下が予想される場合、治療前に卵子を採取して将来の妊娠の可能性を残すためには、本人が希望する場合、治療の副作用対策の一環として認めてきました。
 最近では、健康な女性のために卵子を凍結保存する民間のバンクもあります。
 


産婦人科学会は、浦安市の発表に対してか、25日に以下のようなコメントをすぐに出しました。

卵子凍結「推奨せず」 健康な女性、産科学会 出産先送りに警鐘
 ( 2015年2月26日(木)配信共同通信社)  
 
 日本産科婦人科学会の専門委員会は25日までに、若い健康な女性が将来の妊娠・出産に備えた卵子の凍結保存を「推奨しない」とする見解をまとめた。女性の健康へのリスクや妊娠率が高くないことなどを問題視した。
 若い女性の卵子凍結保存を容認した日本生殖医学会や、卵子凍結を支援する費用を予算案に計上した千葉県浦安市に対立する見解となる。医学的理由によらない卵子凍結の是非があらためて問われそうだ。
 国内の多くの産婦人科医や研究者が所属する日本産科婦人科学会で卵子凍結に関する方針を決める生殖・内分泌委員会がまとめた。28日の理事会に報告、所属医師に通知される。
 見解では、凍結した未受精卵(卵子)は凍結受精卵と比べて妊娠率が低いこと、卵巣を刺激する排卵誘発剤は体に負担がかかること、解凍後に受精卵を戻す際の高齢出産に伴う合併症などを指摘。生まれる子どもの健康に与える影響も不透明だとし、年齢を問わず推奨しないとした。
 委員の一人は「出産の先送りにつながる。自治体も意をくんでほしい」と、浦安市の動きをけん制した。
 一方で見解は、卵子の凍結保存を禁じるものではなく、希望する女性と医師には自己責任で行うよう求めている。同学会は昨年4月、薬を使うがん治療や放射線療法で卵巣機能が失われて妊娠が困難になる場合に、事前に凍結保存することを認めた。