高橋先生のブログ

他院で反復不成功だった方からの出産報告2例

先日、他院で反復不成功であった方から同時に出産報告が届きました。
偶然の妊娠の可能性もありますが、参考になることがあるかカルテを見直してみました。

1)年齢30才中程 他院2施設で、3回の採卵

 
 
 アンチミューラリアンホルモン(AMH)は、2.05と40才相当と高くはありませんでしたが、超音波検査ではPCOのようでした。卵管水腫があり、すでに両側の卵管は切除されていらっしゃいました。
前医では前回13個の採卵で受精卵が得られなかったようです。これはPCOによる未熟卵であったのかもしれません。今回はHMG-アンタゴニスト法で誘発し、卵胞数は多めでしたが、ある程度卵胞が大きくなるのを待ちました。
その結果、30個の採卵、受精は体外受精と顕微授精の両方をおこなうスプリット方を採用しました。その結果は、体外受精で10個中7個受精、顕微授精で10個中8個受精しました。また、最終的に8個の胚盤胞を凍結保存できました。
その後、凍結胚盤胞移植1回目で妊娠、今回の出産となったのです。
この方は、ビタミンC、ビタミンDが低めで、酸化ストレスが高い方でした。総合ビタミン剤のアシストワンを 使用し、OHSS傾向がありましたが成熟卵を多く得る目的で卵胞が大きくなることを粘ったのです。結果的には、多くの胚盤胞も保存できました。PCOの方には、まずはマイルド法が採用されます。この方はすでに前医で2回マイルド法を受けていたので今回は中等度のHMG-アンタゴニスト法を採用したのです。排卵誘発は様々あり、それぞれメリット、デメリットがあるのです。「元も良い方法」が決まっているのではないのですね。同じ方法のみでなく、別な方法を試すのも一つの対策です。
一方、AMHは2.05とむしろ低めであったのに、予定より採卵数がかなり多くなってしまいました。AMHも絶対的な指標とは考えてはいけないと、認識させられた例でした。
 
 
2)30代後半  前医で採卵7回、胚移植を9回受けていました。
 
 

 AMHは1.33と43才相当と低く、DHEAsも低めのためDHEAを使用。酸化ストレスは中等度でさほど高くありませんでしたが、ビタミンCが低めで、治療経過もありアシストワンも使用しました。
前医では着床障害の疑いを指摘されていましたが、子宮鏡検査では問題なし。
治療経過に大きな問題はない(最高6個の採卵)と判断し、前医と同じHMG-アンタゴニスト法で排卵誘発。10個採卵し、男性因子により顕微授精を施行し、培養には新型の培養器のエンブリオスコープを使用。10個中8個受精し、2個胚移植し妊娠。今回の双子の出産となりました。
この方は、特に有効であった方法が何かは分かりません。
しかし、「着床障害」とは現時点での臨床では、重症の卵管水腫がない事を確認し、子宮鏡で子宮内をしっかりと検査しておけば十分なのです。
「特別な着床障害」があるかのような「雰囲気」があまりにも大きく取り上げられている傾向を感じます。
着床するかどうか(つまり妊娠するかどうか)は、漠然とした子宮との間の着床障害があるのではなく、胚の状態(つまり卵)が良いかどうかが大きいのですね。