高橋先生のブログ

着床前診断のメリットと限界、流れとは?

日本遺伝カウンセリング学会誌が送られてきました。
IVFなんばクリニックの中岡義晴先生が「着床前診断の現状と今後」という題名で、シンポジウム論文を投稿されていましたが、参考になりましたので、私の視点での要約をご紹介致します。

日本の着床前診断(PGD)の適応は、
①重篤な遺伝性疾患児を出産する可能性のある遺伝子変異ならびに染色体異常を保因する場合
②均衡型染色体構造異常に起因すると考えられる習慣流産
です。
つまり、

着床前診断は、

1)重症の遺伝病のある場合か、

2)お二人のどちらかに染色体異常のある習慣流産の方、

のみが対象になるのです

PGDの意義としては、

1)羊水検査での異常と診断された場合に中絶するような事態を防ぐことが可能である。

2)均衡型染色体異常では、70%が流産しますが、これを防ぐことが可能である

3)流産を避けたいカップルには有効である

などが、考えられます。

一方、

PGDでの、不都合な面は、

1)PGDにより、生児獲得率(赤ちゃんが得られる可能性)は上がらない

2)妊娠するのに体外受精を必要としないカップルにも、体外受精をすることになる

PGDで赤ちゃんが得られる可能性が高くなると勘違いされている方が、少なくありません。
PGDを行うことで、正常胚が増えるわけではないのです。
むしろ正常胚に対しても、胚の一部分をはぎ取ってくる操作が必要なわけですから、正常胚の着床率が低下する可能性もあるのです。(最近のデータでは、PGDをおこなっても着床率はほぼ同じであるとの報告もありますが、正常胚の着床率が上昇するのことはないのです)
ただし、染色体異常の胚は移植しないので、胚移植あたりの妊娠率は上昇します。(欧米から一例として、胚移植あたりの妊娠率は、46%から71%に上昇した。流産率が9%から3%に低下した、などです)また、年齢が上がっても、流産率はほぼ一定の10%だったとの報告もあるようです。(PGDでも流産を完全に防げるものではないのです)

PGD実施までの準備、期間
PGDには、日本産科婦人科学会の承認が必要です。手続きには
①自施設での遺伝カウンセリング
②第三者機関での遺伝カウンセリング
③自施設での倫理委員会の承認
④日本産科婦人科学科への申請、承認

承認まで必要な期間は、平均6ヶ月かかり、その後に体外受精をするので、妊娠までは約10ヶ月かかるとの事でした。
実際には、遺伝カウンセリングや倫理委員会をもっている施設は非常に限られます。
千葉県では、実際におこなっている施設はないでしょう。
現在、日本ではわずか300例のPGDがおこなわれているようです。
今後、簡略化されて広まる可能性はありますが、その意義と限界をしっかりと理解する必要があるでしょう。